医者の卵のかえらない日々
坪田侑也
第13回 とある数字の日々
2024.4.01
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三月一日 歩数
 午前中、近所のカフェに出かけ、先月分の日記エッセイを推敲する。改めて読み返すと、かなり適当な文章を書いているなと気づいて頭を抱えたくなる。修正作業に行き詰まり、村上春樹『パン屋再襲撃』を読んだ。これは今日中にできるかぎり読んでおきたい。「ファミリー・アフェア」という短編がすごく好みだった。
 十七時ごろ家を出て、早稲田に向かう。今日は早稲田大学の大隈記念講堂で、村上春樹と川上未映子の朗読会が開催される。学生なら(早稲田生に限らず)、先着三〇〇名ほどが無料で参加できるとのことで、友人に誘われて申し込んでいた。新作のことを考えながら(最近全然書いていない)、早稲田まで歩いて向かった。
 友人と合流。会って早々、「なんで私が、早大に」と言ってみてしっかりスベッたあと、講堂へ。朗読会を拝聴。朗読って聞き慣れていなかったけど、言葉が不思議な染み込み方をして面白かった。あと集中が切れると、話が追えなくなる。文字を追うのと同様に、能動性が求められるようだ。
 朗読会後、同じく会に参加していた、友人の文学のゼミの仲間と早稲田「串八珍」で飲む。村上作品のことやゼミの活動、あとは僕の小説の話をしながら、ビール一杯、レモンサワー二杯。そして揚げ物をもりもり食べる大学生四人。文学に満ちた夜。今日の歩数は、12,505歩。
 
三月三日 最高得点
 十時ごろ起床。昼過ぎに家を出て、りんかい線の国際展示場駅へ(りんかい線の乗り換え駅に着くときの、英語のアナウンスが好き。路線の案内で「Tokyo Rinkai Kosoku Tetsudo Rinkai Line」。これがリズミカルで好き)。目的地は、有明コロシアム。Vリーグの男子ディビジョン1、東京グレートベアーズ対日本製鉄堺ブレイザーズの試合を観戦する。文藝春秋から先月出た『八秒で跳べ』がバレーを題材にしている関係で、チケットをいただいたのだ。医学部バレー部の友人とともに、白熱した試合に興奮。詳しいことは、文藝春秋のどこかの媒体に載っている観戦記へ! やっぱり、バレーボールは面白い。
 あとそれと、スイカゲームの今日の最高得点、3496点。キャリアハイを更新した。
 
三月五日 体重
 九時に起床。二度寝。十一時に再度起床。昨日は一日出かけていて、帰ってくるのが遅かった。窓の外は曇り空。それに寒くて、元気が出なくて、本当は午前中からカフェにでも行って原稿と対決しようと思っていたのに、しばらくうじうじと布団の中でスマホをいじったり、本を読んだり。十二時ごろのっそり起き出して、食卓にあった焼き芋とトーストを食べた。こんな時間に朝ご飯食べてどうするの、と母に言われる。まじでそれな、と思う。朝からどうも調子が狂っている。
 メールをいくつか返し、以前受けたインタビューの原稿をチェックし、遅い昼ご飯を食べ、今度開催されるバレー部の追いコンで使う居酒屋を予約して、村上春樹『パン屋再襲撃』を読み終える。この間、ティッシュボックスを一つ使い切った。鼻水が止まらない。目が痒い。喉がイガイガする。認めたくないが、例のアレだ。春の風物詩の、アレ。
 ちょっと居眠りして、気づいたら夜。ラジオを聴きながらストレッチしたあと、夕食。録画していた「光る君へ」第三回を見ながら、鮭の塩焼きを食べた。いまのところ、主人公の紫式部と藤原道長の関係性の描写を軸として話が進んでいて、その構造が非常にわかりやすく見やすい。もう少し頑張って、来週末くらいには追いつきたいな。
 食後、風呂に入る段になって、一日中パジャマでいたことに気がついた。やっぱり今日は調子が狂っている一日だ。
 風呂に入る前に体重を量った。66.7キロ。BMIは20.85。

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著者プロフィール

坪田侑也(つぼた・ゆうや)
2002年東京都生まれ。現在、都内の私立大学医学部在学。2018年、中学3年生のときに書いた『探偵はぼっちじゃない』で第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。『探偵はぼっちじゃない』は2019年、KADOKAWAより単行本として刊行された。2022年、角川文庫。2023年5月、第2作となる長篇を脱稿。この第2作は『八秒で跳べ』として、2024年2月、文藝春秋より刊行される。

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